「本番には魔物が潜んでいる」という言葉がありますね。ライブなどのステージに立ったことのある方には魔物に食われた、というご経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思います。
私もあがり症の傾向があるので、練習では弾けていたはずなのに本番では納得のいく出来にならず悔しい思いをした、という経験が数え切れないくらいあります。
一方で、本番にまったく緊張しないでケロっと演奏してしまう人もいて、常々羨ましい…と思っています。そう見えるだけなのかもしれませんが。
緊張しててもいいから、せめて練習と本番とのギャップを近づけたい。これはパフォーマーの永遠の課題でもあり、私の目下の研究テーマでもあります。
今回は実際に私が体験した緊張エピソードから、その原因と解決するために試してみた対策、その中で有効だと思ったものをご紹介していきたいと思います。
緊張する理由は?
そもそも、なぜ緊張してしまうのでしょうか?いろいろ理由はあると思いますが、私が思いつく限りだと大きくこの2つです。
- 準備不足
- 上手くやらなければ!というプレッシャー
準備不足については、成功率が低い箇所があるのに本番に臨んでいたり、出かけるときに慌てて必要な機材を忘れてしまっていたり…。
逆に、「これでもかというくらい練習をしたはずなのに本番ではイマイチだった」ということがあります。その原因となるのが心理的なプレッシャーです。
私は小学校に上がるくらいの頃からピアノを習っていたので子ども時代にも人前での演奏を経験しています。
小学生の頃は人前でも緊張せずにケロッと弾いていましたが、中学生になってからの発表会では、バッチリ緊張するようになりました。
周りの評価を意識するようになって、「いいところを見せたい」とか、「上手くやろう」といった心理がいつの間にか緊張に変化しているのかもしれません。
緊張してる時の症状
皆さんは緊張してしまうとどういった変化が起こりますか?私の経験だとこのようなパターンがありました。
- 頭が真っ白になる
- 自分の音が気になる(周りが聞こえない)
- 手が震える
- 手が冷たくなる、手汗がひどい
- 余計な力が入る
どれも練習中には起こらない変化です。大きく分けてアタマや感覚に起こる変化と、身体に現れる変化がありそうです。
アタマに起こる変化
アタマに起こる変化は、もともとある心理的なプレッシャーをさらに加速させてしまう気がします。
私がよくそれに陥ってしまうパターンは、普段の練習では聞こえないようなノイズやミュートしきれなかった音が気になってくるのです。
もともと緊張というものは、人間が危険から身を守るために起こるものだそうで、緊張状態になると感覚が冴えわたって普段よりも敏感になるようです。
脳内会話のようなものも、練習の時以上に行われているような気がします。
身体に起こる変化
身体に起こる変化はご経験がある方多いと思いますが、手が震えたり、手汗が止まらなくなったり、身体がこわばっていたり。演奏するのには不都合な状態ばかりです。
思ったように手が動いてくれず、音を外してしまったり、後で動画で振り返ったら自分でもびっくりするぐらい微動だにせず演奏していたということ、ありませんか?
身体の柔軟性が失われてしまっていることが多いですよね。
パフォーマンスが良くない時の特徴
パフォーマンスがよくない時はアタマと身体の両面でいつもと違う感覚に踊らされているような気がします。
そして、それが気になって緊張感が増し、よくないスパイラルにはまっていくような感じ。
逆に、まあまあだったと思う時は緊張はしているけどどこかに冷静な自分がいます。
いつもと違う感覚に引きずられて普段の練習では絶対にしなかったミスをしてしまうこともよくありますよね。「なんでここ間違った?」と思うようなミスも、何度もあります。
このようなミスも含め、パフォーマンスがよくない時というのは、緊張によるアタマや身体の変化に適応できていないことが悪さをしているんだろうと思います。
となれば、解決するためにはアタマや身体の変化に踊らされないことがキーポイントとなってきそうです。
緊張対策で試してみたこと
緊張するということがちょっとした恐怖症のようになっている私は、本番前に緊張を和らげるためにあらゆる策を講じてきました。神頼みっぽいものから良さそうだったものまで…
これまでの原因を紐解くと、心理的(アタマ)に起こっていること、物理的(身体)に起こっていることの2つに作戦が分けられそうなので、「心理作戦」と「物理作戦」で攻めてみました。
これまで私が試したことはこんな感じ。
- 心理作戦:仕方なく弾いているのだと思いこむ
- 物理作戦:本番前にお風呂に入る
- 物理作戦:身体の動きを知る
結論としては、心理作戦よりも物理作戦の方が効きました。それでは、試してみたこの3つについて、順番にご紹介していきます。
仕方なく弾いているのだと思い込む
うまくやらなきゃ!と思った時に緊張してしまうことへの対策です。「うまくやらなきゃ!」と本当は思っている自分を騙し騙しやっているので、良いところ悪いところがありました。
良いところは変なプレッシャーや緊張感はなくなり、肩の力を抜いて演奏できたことです。
悪いところはパフォーマンスが通常よりも雑になりました。仕方なく弾いてるという思い込みが悪い方に作用したためでしょうか。
一時的な緊張しのぎには良いのですが、かなり消極的なアプローチだとも思うので、演奏を心から楽しめず、ベストな方法ではありませんでした。
本番前にお風呂に入る
私のバンドでは本番前にお風呂に入ると良い演奏ができるというジンクスがあります。
バンドで合宿した時に、練習でなかなか納得いくものにならず、息抜きにみんなで近くの温泉に行きました。その後にまた練習を再開したのですが、いく前に比べとても良いパフォーマンスになりました。
実際にライブ当日も銭湯に行ってから本番に臨みましたが、緊張はしたものの楽しく演奏ができました。
後で調べてみたら科学的な観点で見てもズレていなさそうな対策でした。
緊張した時には「ノルアドレナリン」という脳内物質が分泌されるのですが、これが手汗をかく・震えるなどの身体への変化をもたらしています。
お風呂に入ると「セロトニン」という自律神経を整える脳内物質が分泌されて、このセロトニンがノルアドレナリンの分泌を抑える働きがあるようです。
この働きによって緊張が解けて、良い感じに力が抜けてパフォーマンスが上がったのだと思います。
身体の使い方を知る
これでもかというくらいに練習したのに、本番にその力がうまく発揮できない、というのは非常に悔しい体験です。
私はこの解決方法を調べているうちに音楽学校や演劇学校などでは授業として取り入れている「アレクサンダーテクニーク」というものにたどり着きました。
これはアレクサンダーさんという舞台俳優が考案したもので、彼には「本番で緊張して声が出なくなる」という課題がありました。
その課題について突き詰めると、本番の緊張で身体に不必要な力が入っていたことが原因でした。
それに対して本来の無理のない身体の使い方を学び、改善していくといった方法を研究した結果が「アレクサンダーテクニーク」です。
「無理のない身体の使い方」というのは、極端にいうと腕に目一杯力を入れてストロークをするよりも、弦に当たる時だけ適切な力でストロークをした方がいい音が出るといったご経験があるとわかりやすいかもしれません。
この腕に目一杯力を入れているのと近しい状態が、本番の緊張している時に起こってしまうと、うまくいかなくなります。
普段の練習の時から不必要な動きや力の入れ方をしないよう意識し、本番でもその状態に近づけるようにしていくという方法になります。
実際にレッスンも受けてみたのですが、その結果、必要な動きをするための知識をつけて意識をするのが効果的でした。
その知識というのが、演奏する時の動作が具体的に身体のどこの関節や筋肉が使われているのか、といったものになります。
解剖学を少しかじるような感じになるのですが、「ボディーマッピング」といった言葉で言われることもあり、本も出ています。
ちなみに私は「ヒューマンアナトミーアトラス」(リンク先に人体模型みたいな画像が出るので苦手な方はお気をつけください…)という有料アプリで勉強しています。実際に動くアニメーションがあるのでおすすめです。
もしご興味のある方はチェックしてみてください!
インスタントな対策と、長期的な対策
プロのミュージシャンの方のライブを見ていると、本当に自分と同じ人間なのかと思うくらい、本番でも素晴らしいパフォーマンスをされますよね。緊張を味方につけているかのようにも見えます。
ただ、そんなミュージシャンさえも本番では緊張するといったエピソードをはよく耳にします。
それならば、「緊張はしてしまうもの」と割り切った上で、緊張している中でいかにパフォーマンスを上げていくかに集中した方が対策としては効果的なように思えてきます。
私が取った対策の中で言うと、心理作戦で自分を騙し騙し演奏するよりも、物理作戦の方しっくりきそうです。
すぐに実践できる対策としては、本番前にお風呂に入るというのが良さそう。そして、長期的な対策としては、身体の使い方を知ることになると思います。
すぐにできる対策
本番前にお風呂に入る
長期的な対策
身体の使い方を知る
俯瞰して演奏を見る
実際に自分が演奏で上手くいったと思える時は、どこかに冷静な自分がいて、本番でも客観的に俯瞰して演奏を見ることができている時です。
身体の使い方の知識を身につけると、練習の時もそうですが、本番のふとした時に自分の身体に意識を向ける癖がつくようになります。
この本番のふとした時に身体に意識が向くことで、周りが見えていないモードから、俯瞰して自分を見るモードに視野が変化し、結果的に客観的に演奏を見ることができるのではないかと思います。
そういう意味で、直接的ではないのかもしれませんが、身体の使い方を知るということは日頃の練習に組み込んでいくと緊張対策につながりそうです。
緊張に悩まされている方はぜひご自分の楽器を演奏するときの身体の使い方を意識してみてください。